独学メモ

本・映画・海外ドラマ・将棋など、個人的趣味について言語化する遊び場。

2018年に読んだ本マイベスト10

2018年は180冊ほど完読できました。2019年は200冊をめざしたいところですが、現時点で1冊も読んでいません。年明けからスマブラSPをほぼぶっつづけて15時間ほどプレイしてしまったことがいけませんでした(たのしかったです)。2日はその反動でほぼ寝て過ごし、3日も「いっそのことがっつり休んでしまおう」となまけ根性を出して、寝正月を達成してしまったのでした。

ともあれ、読書については明日から本気を出すことにして、さっそく本題へ。

 

2018年に読んだ本マイベスト10

2018年に出版された本というわけではなく、あくまでぼくが2018年に読んだ本です。個人的に関心のあるジャンルは、心理学をはじめとした認知科学全般のほか、哲学・科学・文学など。いわゆる文系・理系の区別にこだわらず、雑食でいろいろと楽しんでおります。

啓蒙思想2.0
啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために

 

この本は2018年でいちばんおもしろかった一冊でした。現代では行動経済学進化心理学などの学問分野において、人間の動物的本能を探っていくような研究がさかんにおこなわれています。そうした研究でわかってきたことは、人間の認知には、さまざまなバイアスが潜んでいるということです。人間の理性が、これまで考えられていたほどには信頼できないものであることが、科学的に証明されはじめています。

本書はそうした研究の成果をふまえた上で、どのようにしてよりよい社会をつくっていけばよいのか、さまざまな事例を紹介しながら論を進めています。政治やメディアについて絶望的に思えるような現状を共有した上で、課題の解決方法をできるだけ具体的に考えていこうとする試みは、たいへん興味深いものでした。

 

消された一家
消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

 

2018年のはじめは、凶悪犯罪のルポルタージュをたくさん読んだ時期でした(一度読みはじめたら、同じジャンルの本を大量に読みたくなるタイプなので)。中でも、ぼくがもっとも恐ろしく感じたのが本書『消された一家』です。

ある一人の犯罪者によって監禁された家族が、お互いを殺し合うまでに精神を追い込まれていく。そんな悪夢のような事件の経緯を描いています。「なぜそんなことが起きてしまったのか?」と疑問に思った方は一読をおすすめします。

とはいえ、事件には犠牲者がいます。そうした本を読むことには、どこか罪悪感が付きまとうように思います。犠牲者に対して無邪気な好奇心の目を向けるということに、ある種の暴力性を感じるような感覚があります。自分としても、この本を読んで得たことで何ができるのか、考えていかなければいけないのだろうと、今こうして書評を書いていて感じました。

 

誕生日を知らない女の子

さまざまな犯罪ルポを読んでみて感じたことは、子供が被害に合う事件のつらさでした。なんだか偽善者ぶった言い方に感じられるかもしれませんが、やはり子供が犠牲になる事件について読むことはつらかったです。

本書はそうした暗い気持ちに、すこし希望を感じさせてくれる一冊。虐待に合った子供たちを引き取って育てる「ファミリーホーム」という取組みについて取材しています。

虐待で精神に傷を負った子供たちは、コミュニケーションを取ることが非常に難しい状態になっていることが多いそう。そんな心を閉ざした子供たちに対する具体的な行動の数々に胸を打たれるルポルタージュでした。

 

大人の英語発音講座
大人の英語発音講座 (生活人新書)

大人の英語発音講座 (生活人新書)

 

ジャンルはガラリと変わって、英語を学習したい方、また英語のみならず語学に興味のある方におすすめの一冊。英語音声学という学問の研究者たちによって書かれた、英語発音の指南書です。

個人的には、これまで英語に対して感じていた苦手意識を見事に取り去ってくれた本でした。なんといっても、研究者がはっきりと、理論的な背景も説明してくれた上で、英語の正しい発音がわからないことは普通のことである、というようなことを言い切ってくれていることが頼もしい。特に、ぼくは何かを勉強するときに理屈から入るタイプなので、こういう本をずっと読みたかったのだと目からウロコの連続でありました。

また、章ごとに別の研究者が執筆しているのですが、それぞれ英語音声学という学問がとても好きなのだということが伝わってくるような気がしたのもうれしかったです。英語の勉強を理論的に学べて、かつ、学ぶ楽しさも感じさせてくれる名著といえるでしょう。

 

 よくわかる文章表現の技術(全5巻)
よくわかる文章表現の技術〈1〉表現・表記編 (新版)

よくわかる文章表現の技術〈1〉表現・表記編 (新版)

 
よくわかる文章表現の技術〈2〉文章構成編 (新版)

よくわかる文章表現の技術〈2〉文章構成編 (新版)

 

世の中に文章術の本は数あれど、この本は一味ちがうといえます。

著者の石黒圭氏は日本語学者。本書の構成は、一言でいえば、いわゆる講義ものです。生徒たちに文章にまつわる課題を出し、実際にそれぞれ文章を書いてもらい、それに対するコメントを石黒氏が述べていくというかたちです。

そして、もうひとつ、本書ならではといえるポイントがあります。それは、生徒たちが課題に応えて提出した文章を、生徒たち自身も読んで、どの文章がより課題に沿っているのかを判定していることです。これが本当にすばらしいアイデアだと感じました。

つまり本書は、文章の良し悪しを先生の一存で決めるのではないのです。あくまでも生徒たちの人気投票の結果をふまえた上で、先生が日本語学の研究者としての観点からコメントしていくという構成になっています。読者は、課題を自分で解いてみたり、生徒の投票結果と自分の感覚を比べてみたり、石黒氏のコメントを参考にしてみたりと、複数の観点から文章技術を学んでいくことができます。

文章の良し悪しの判断は、個人個人の感覚によるもの。そういう思想が講義の方法論のレベルから示されているわけですね。そして、ぼくとしては、これは正しい方向性だと思います。いわゆる「名文」といわれるものに決まった定義などない。こうしたことを語る文章術本は少なくありませんが、これを実践的に伝えてくれる本は初めて読みました。

※残念ながら3~5巻はどうやら絶版の様子(2019年1月4日時点)。

 

と、10冊中5冊を紹介したところではありますが、ちょっと執筆に時間をかけすぎたので、残りの5冊は適当解説で……笑。このブログはのんびり気楽につづける予定なので、あまりにも尻すぼみですがご勘弁を。もしかしたら、後日また書くかもしれません。

 

東京大学アルバート・アイラー 

めちゃくちゃおもしろい音楽講座です! 20世紀アメリカの音楽史を振り返りながら、「ジャズとは(そしてポピュラー音楽とは)、どのような音楽なのか?」といった深いテーマに迫っていきます。具体的には、コード進行によって音楽をつくりあげていく手法について、ビバップミュージシャンたちによる実践とバークリー音楽大学による理論(バークリーメソッド)、双方が関連しながら発展していく歴史を語っていくことが大きな柱となっています。

また、同著者コンビの『憂鬱と官能を教えた学校』『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究』も最高。2019年は『アフロ・ディズニー』も絶対読みます。

 

論理学をつくる
論理学をつくる

論理学をつくる

 

本書については読書猿氏の以下の記事をどうぞ。この本を読んだあと、文章能力アップをめざしたい方は『論理トレーニング101題』を、論理学と自然言語の関係や論理学の発展の歴史を学びたい方は『言語哲学大全』がおすすめです。

readingmonkey.blog.fc2.com

 

偶然性・アイロニー・連帯
偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

 

適当でも書評するのが難しい、ぼくにとってはかなり背伸びして読んだ一冊。 とはいえ、ところどころは納得できる話が展開されており、理解したいと思える本でもあったのでベスト10に。ローティは、2019年の個人的な課題のひとりです。

また、哲学に関しては中央公論新社の『哲学の歴史』シリーズも読みはじめています。まだ近代の8~12巻しか読めていませんが、2019年はシリーズ完読をめざしたいところ。2018年には、哲学を学ぶには近道は存在せず、歴史をしっかり学ぶことが重要なのだと悟りました。

 

うつ病九段
うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間
 

当方将棋ファン。うつ病という病気がどんな病気なのか、ファンとして見知った世界を通して語られることで理解が深まった一冊でした。それにしても、あの先崎先生が7手詰めの詰将棋すら解けなくなるとは……。本当に脳の病気なんだなと実感させられた衝撃的なエピソードでした。

 

新復興論
新復興論 (ゲンロン叢書)

新復興論 (ゲンロン叢書)

 

2018年に最も感動した本のひとつ。福島の復興にかかわってきた活動家の小松理虔氏によるエッセイをまとめた一冊です。『ゲンロンβ』という電子書籍の雑誌で連載されたエッセイがもとになっています。

元々、個々のエッセイは独立しても読めるような内容ですが、一冊の本としてまとめる編集が非常に巧みな印象を受けました。というわけで、最初から通して読むことをおすすめします。特に終盤、これまでの話題が集約されるように文化の話へとつながるあたりは、鮮やかに伏線を回収する良質なミステリーを読むときのようなカタルシスを感じられました。

もちろん、福島の復興を考える上でも優れた一冊だと思います。何より、読むと福島に行ってみたくなります。

 

以上10冊。ほかにも書きたい本はたくさんありますが、書評記事を書くのはなかなか時間がかかることがよくわかりました(当記事は4時間以上……)。書きはじめるとあれもこれもと思いついてしまうのが問題ですね。できれば今後は本からの引用などもしたいところですし、効率よく書くということも考えながら、自分のペースでブログをつづけていきたいと思っております。